レーザ焼肉(1)SMAP 結成

Super Meat by Advanced Photons : SMAP

SMAP

みんな、焼肉は好きかい?うちの研究室の奴はみんな大好きさ。荒川の秋ヶ瀬公園で鉄板を囲んで、一致団結しながらビールを片手に肉を焼き、腹一杯食べる。最高だね。研究の実験よりも手際が良く、集中力が高いと感じるのは俺だけだろうか。ミーティングの時よりも熱く、真剣なディスカッションが繰り広げられる。「お前、俺がキープしてた肉、取るなよ。」「お前こそ自分の取り皿に5枚も肉をキープするなよ。」「やっぱ牛タンは最高だよな。」「早く焼きそば焼こうぜ。」「ピーマンこんなに買ってくるなよ。誰が食うんだよ。」気温は真夏のハワイのごとく上昇し、俺らのハートは最高潮エクスタシーに達する。

こんな俺達が実験中に焼肉の事を考えない訳がない。レーザで焼肉を焼こうなんて実験中に思いつくに決まっている。研究もできて焼肉も食べられて、ああ一石二鳥、なんて美味しいのでしょう。でも真面目な方々はレーザ焼肉と聞いて、何考えているんだ、もっと真剣に研究しろ、とおっしゃるかもしれません。でも俺達は大真面目ですぞ。研究なんて人がやらない事をやるもの。レーザ焼肉なんて誰もやってないんじゃないの。てなわけで

Super Meat by Advanced Photons 略して SMAP

が出来たってわけ。

じゃあどこから手を付けていけばいいかと考えてみた。まず、人は何故肉を焼くのか。生じゃいけないのか。実際に生肉を食べてみた(実験1)。腹を壊した。うーん。やっぱり生じゃダメなんだね。じゃあ、焼くとどうなるのか。


肉を焼くと赤い色が段々と白くなっていく。焼くという操作により肉内の水分が蒸発する。もっと重要なのは肉の約15%を占めるタンパク質が変性を起こす。変性とはアミノ酸のペプチド結合の切断を伴わずに、二次、三次、四次構造に変化を起こす現象である。するとペプチド鎖はほどけ、分子内に折り畳まれて隠れていた原子団や基が露出し、酵素の作用を受けやすくなる。つまり変性により内臓での消化、吸収が効率よく行われる事になる。さらに焼くことにより、肉に含まれる細菌を殺す事が出来る。60度以上でほぼ細菌は死滅する。このように変性と殺菌という2種類のメカニズムが、焼肉には内在していると考えられる。

これをレーザを用いて実現出来ないか。我々SMAPはタンパク質の光の吸収に着目してみた。多くのアミノ酸は 230nm 付近の紫外部に強い吸収を示す。また芳香族アミノ酸は 280nm 付近に最大吸収を示す。また細菌という観点から考えると、細菌を構成するDNA や RNA 内のプリン塩基やピリミジン塩基は 260nm 付近の紫外線を強く吸収する。さらにこの波長の光を DNA に照射すると、核酸に特異的に吸収されイオン化により DNA 構造に変化を起こし、複製が阻害され死滅に陥る。このように 230~280nm の紫外線レーザを用いる事により、タンパク質の変性や殺菌作用がレーザにより可能であると考えられる。

実際にその波長域に適合したレーザはあるのか。これは我々レーザ屋の得意とする問題だ。実用的な紫外光レーザといえば波長 248nm の KrF エキシマレーザがある。我々の研究室にももちろん存在する。また最近盛んである非線形光学効果を用いたNd:YAGレーザによる第四高調波の 266nm も考えられる。Nd:YAGレーザも所有しているが、第四高調波を発生させるには高度な技術が必要である。ここで大事なのはレーザの出力エネルギーである。エネルギーが小さいと、タンパク質の高次構造の切断エネルギーや核酸のイオン化エネルギーが得られない。前述の二つのレーザを比較すると、明らかにKrF エキシマレーザのエネルギーのほうが大きい。1パルス当たりのフルエンスは数 J/cm2 にも達する。レーザ焼肉には KrF エキシマレーザ が妥当であると考えられる。

では果たしてこのレーザで本当に変性、殺菌作用が得られるのか。現在 SMAP ではタンパク質内の種々の結合エネルギーとレーザのエネルギーとを比較し、どの結合がどの程度切れるのか検討中である。また上述の通り、我々は光化学的過程のみを考慮しているが、熱的過程の考察も不可欠である。問題点は多いが、レーザ焼肉の実現はそう遠くないと確信している。理論的な問題が解決されれば、いよいよレーザ焼肉実証実験となる。世界初のレーザ焼肉を行うのは、君かもしれない。

現在 SMAP では会員を募集中である。焼肉の大好きな君、くだらないけど面白そうだと感じたあなた、レーザが何に使われているのかよく分からない諸君、今の生活が退屈でつまらない方々、肉だけでなく野菜も食べた方がいいと心配してくれる優しい天使達。人種、性別、出身地、年齢、職業、家族構成、前科、一切問わない。合い言葉は、99%の好奇心と1%の幸運。我々は本気(マジ)である。