内田研究室の研究テーマ
(3)レーザのダイナミクスを用いたリザーバコンピューティング

1.リザーバコンピューティングとは?

脳の神経回路を模倣したニューラルネットワークによる情報処理の研究が盛んに行われています。近年、新たにリザーバコンピューティングという手法が提案されています[1]。これはネットワークを固定したリザーバ(Reservoir)を用いて情報処理を行う手法であります。本手法は新たな機械学習方式として大変注目されており、非ノイマン型コンピュータの実現を目指しています。

リザーバとは、貯水池やダムという意味であり、以下の比喩が名前の由来です。例えば小石をダムへ投げる場合、水面上に波紋が生じます。この時、波紋は複雑に見えますが小石とは一定の対応関係が成立しているため、波紋から小石の形状や速度等を推測することができます。このように投げ入れた小石の情報を知りたい場合、この情報を水面上の波紋という全く別の形に変換して解釈して情報処理を行うことがリザーバコンピューティングの概念であります。

2.半導体レーザとリザーバコンピューティング

レーザの高速な不規則振動は、ある条件の下で入力と出力との間に再現性を示す場合があります (コンシステンシーと呼ばれています)[2]。この再現性はリザーバコンピューティングにおいて重要であり、レーザをリザーバとして用いた実装が可能となります。

リザーバコンピューティング 図1 半導体レーザを用いた時間遅延システムに基づくリザーバコンピューティング [3]

本研究ではネットワークの代わりに時間遅延した戻り光を有する半導体レーザを用いて、リザーバコンピューティングの研究を行っています。この方式では入力信号にマスク信号を加えて変調したレーザ光1をレーザ2に注入します。注入されたレーザ2のフィードバックループ内における出力を一定間隔で区切り、その応答出力を仮想ノード状態と仮定します。さらに仮想ノード状態の重み付き線形和を計算し、これを出力値とします。入力と出力が一対一対応になるように、重みを学習することで情報処理が可能となります。

本方式の利点として数GHzでのレーザダイナミクスを用いた高速な情報処理が可能となります。本研究では数値計算および物理実装を行い、時系列予測や音声認識等への応用を行っています。またシステムの複雑性等を定量的に評価し、情報処理の有効性について調査しています。

参考文献
[1] H. Jaeger and H. Haas, Science, Vol. 304, pp. 78 (2004).
[2] A. Uchida, et al., Physical Review Letters, Vol. 93, pp. 244102 (2004).
[3] L. Appeltant, et al., Nature Communications, Vol. 2, pp. 468 (2011).