一般的な研究紹介
(2)複雑系フォトニクスとは?

複雑系フォトニクスとは、「複雑系」と「フォトニクス」の研究分野が融合した学際的学問分野であります。複雑系とは、カオスや非線形ダイナミクスに関する研究分野であり、一方でフォトニクスとは、レーザや光学に関する研究分野であります。独自に発展してきた各々の研究分野を融合することで複雑系フォトニクス分野として位置づけ、新たな研究活動を行っています。

図1 複雑系フォトニクス 図1 複雑系フォトニクス

複雑系とは、単純なシステムが複雑な振る舞いを示す、または複雑なシステムが単純な振る舞いを示すという、直観に反した現象を扱う学問分野です。前者の例として、戻り光を有する半導体レーザが挙げられます。レーザに戻り光を加えるだけで、レーザの光出力は不規則で複雑な時間ダイナミクスを示すことが知られています。一方で後者の例として、カオス同期が挙げられます。カオス的振る舞いを示すシステムを結合することで、システム間のカオス振動が完全に一致して同期することが知られています。

またフォトニクス分野とは、レーザに代表される光学技術を取り扱う研究分野であります。光の性質を利用してレーザというきれいな光を造り出し、これを工学応用へ活かすという方向性の研究が主に行われていました。一方でレーザが本質的に有する非線形性により、レーザ出力は自発的に不安定現象を生じることが知られています。この非線形性を抑え込むことが従来のフォトニクス応用の際には必要とされていました。

一方で近年、レーザにおいてカオスを意図的に発生させることで、レーザの高速性とカオスの不規則性を組み合わせた新たな光情報通信分野への応用が活発に提案されており、レーザにおける複雑現象(複雑系フォトニクス)が注目を浴びております。特に、光秘密通信や高速物理乱数生成、また情報セキュリティ等の情報通信応用に関する研究が盛んに行われております。

本研究室では、主にレーザとカオスを組み合わせた複雑系フォトニクスの基礎および工学応用に関する研究を行っております。しかしながら、複雑系フォトニクス分野はそれらの研究に留まるものではありません。フォトニクス(光学)における複雑系(システムまたは現象が複雑)であれば、本分野の領域に含まれていると考えられます。今後、複雑系フォトニクス分野における新たな研究の芽が数多く誕生することが強く期待されています。

参考文献
[1] M. C. Soriano, J. García-Ojalvo, C. R. Mirasso, and I. Fischer, Reviews of Modern Physics, Vol. 85, pp. 421-470 (2013).