詳しい研究紹介
(5)高速物理乱数生成への応用

複雑系フォトニクスを用いた別の応用の一つとして、高速物理乱数生成が挙げられます。レーザカオスを用いることで、広い周波数スペクトル帯域幅を持つ高速カオス時間振動を生成可能となります。半導体レーザの典型的な帯域幅は数GHzであり、これは緩和発振周波数により決定されます。このようなレーザの有する高速性は、物理乱数生成の応用のために有用であります。さらにレーザ内部に含まれる微小ノイズをカオスにより非線形増幅することで、大振幅の不規則振動信号を生成することが可能となります。カオスの複雑性とレーザの高速性の組み合わせにより、高速物理乱数生成という新たな工学応用が可能となります。

レーザカオス波形から乱数を生成するための概念図を図1に示します。レーザの光強度出力であるカオス信号は光検出器で検出されて電気信号へと変換され、アナログ-デジタル(AD)変換器により2値のデジタル信号に変換されます。AD変換器では、入力されたアナログ信号の電圧としきい値電圧を比較することで、アナログ信号を2値のデジタル信号に変換します。また出力信号には0と1のランダムな数列が出現しており、これは2値乱数列と呼ばれています。

図1 レーザカオスを用いた高速物理乱数生成 図1 レーザカオスを用いた高速物理乱数生成

レーザカオスを用いた高速物理乱数生成は2008年に世界に先駆けて本研究室にて実験的に実証され、1.7 Gb/sでの実時間物理乱数生成が達成されました。それ以降、世界的に多くの研究活動が行われており、その生成速度は既にTb/sを超えております。さらに光集積回路を用いた物理乱数生成器の小型化に関する研究も盛んに行われています。