詳しい研究紹介
(4)光秘密通信への応用

複雑系フォトニクスを用いた応用例として、光秘密通信の研究が行われています。その概念を図1に示します。メッセージ信号は送信レーザのカオス搬送波の中に加えられて隠蔽されます。カオスとメッセージが混合された伝送信号は、通信チャンネルを通して受信レーザに送信されます。ここでカオス同期の技術を用いてカオス信号を受信レーザで再生します。伝送信号(カオス+メッセージ)から同期したカオス信号を差し引くことで、メッセージの復号が可能となります。ここでカオス同期の精度は、メッセージの復号精度に強い影響を及ぼします。

図1 レーザカオスを用いた光秘密通信 図1 レーザカオスを用いた光秘密通信

本手法では、カオス同期を用いて遠く離れたユーザ間で同一のカオス搬送波を共有することが重要となります。前述の通り、カオス同期を達成するためには、送信レーザと受信レーザでほぼ同一のハードウェアとパラメータ値を用いる事が必要です。そのためパラメータ誤差に対する同期の許容誤差は、本通信方式におけるセキュリティの定量的指標の一つとなります。すなわち、同期可能なパラメータ領域が狭い場合、第3者の盗聴者によるカオス同期が難しくなることから盗聴が困難となり、より高いセキュリティを得ることができます。また、レーザカオスを用いた光秘密通信は、メッセージの意味を隠す従来の暗号方式とは異なり、電子透かし技術のようにメッセージの存在をカオス搬送波に隠すことが主な目的となります。

近年、レーザカオスを用いた光秘密通信の実用的な実装方式が進展しており、商用光ファイバネットワークにおいて、低いビット誤り率での伝送実験が達成されています。また専用の光集積回路や誤り訂正技術を用いたカオス光秘密通信の実装がこれまでに報告されています。