詳しい研究紹介
(2)カオス同期

カオス研究における興味深い発見の一つに、同期現象が挙げられます。同期とは、複数の非線形システムが同一の振動をすることを意味しています。共通の壁に固定された2つの振り子は、同じ周波数および位相で振動することが知られています。また周期的な発振器の同期は、一般的に多くの通信分野における応用技術として利用されています。

一方でカオス的な時間振動が同期可能であるかどうかは、大変興味深い問題であります。カオスは、2つの近い振動が時間の経過に伴い指数関数的に発散し、同一状態にならないという初期値鋭敏性を有しています。そのため僅かな誤差によりカオス時間波形は異なる振動となるため、カオスが同期可能であることは直感に反しており、カオスの基本的な特性である初期値鋭敏性と矛盾していると思われます。

しかしながら、カオス的なシステムはある条件下で同期可能である事が知られています。図1にその概念図を示します。非線形システムは不安定な時間波形を生成しますが、別の送信システムからの入力信号に対して受信側のシステムが追従できる場合があり、駆動システムのカオス時間波形に受信システムが同期することは可能となります。入力信号に対する追従性の変化は、カオス同期を達成するために本質的に重要となります。

図1 カオス同期 図1 カオス同期

ここで同一のカオス時間振動を示す現象は、完全同期と呼ばれています。カオスの完全同期を達成させるためには、2つの結合された非線形システムの間で、ほぼ同一のハードウェアとパラメータ値を用いる必要があります。同期における安定性は非線形システムのパラメータ値に依存しており、様々なレーザシステムで同期が安定となるパラメータ領域が観測されています。

カオス同期は直観に反する物理現象であるために、多くの研究者の興味を引き学術的研究が盛んに行われてきました。さらにカオス同期を用いた秘密通信への応用可能性が指摘されて以来、工学応用への期待から多くの注目が集まっています。特に一方向結合されたレーザにおけるカオス同期は、光秘密通信や秘密鍵配送方式への応用を目指した多くの研究が報告されています。