詳しい研究紹介
(1)戻り光を有する半導体レーザにおけるカオス光出力

戻り光を有する半導体レーザは、レーザにおける典型的なカオス発生方法です。半導体レーザは小型の光ディスクや光通信システムに広く用いられています。光ディスクの表面や光ファイバの端面で生じる反射により、レーザ光の一部がレーザ自身に戻り光として注入されて、不規則なカオス出力光が得られます。

図1(a)に戻り光を有する半導体レーザのモデル図を示します。レーザ光は外部鏡により反射され、レーザ自身の光がレーザ共振器内に戻されます。レーザ自身の戻り光により、光子とレーザ媒質におけるキャリア密度との間に非線形な相互作用が生じ、レーザ共振器内の光強度が不安定化します。レーザの光強度出力のカオス的な時間波形は実験的に観測可能であり、その結果を図1(b)に示します。GHzオーダ(振動の周期がナノ秒オーダ(10-9 秒))の非常に速い光強度の振動が観測されていることが分かります。この振動周波数は半導体レーザの緩和振動周波数に対応しています。

図1 戻り光を有する半導体レーザの (a)概念図と、(b)カオス出力振動 図1 戻り光を有する半導体レーザの (a)概念図と、(b)カオス出力振動

これまでに様々なレーザにおいてカオス的出力振動が観測されていますが、多くの研究分野においてレーザ出力の不安定性は注目されていませんでした。多くの応用分野ではレーザ出力の不規則な揺らぎを避けることが通常の使用方法でありました。工学応用に用いるためには、レーザを安定出力でシングルモード(1つの波長)かつ狭い光スペクトル幅にする方向で研究が進められてきました。安定な光出力を得るためには、レーザ出力の不規則振動は取り除かれる必要がありました。

一方で、非線形力学の研究分野の観点からは、レーザ出力の不規則振動は非線形力学理論を具現化するための実験系として高く評価されております。加えて、レーザとカオスの積極的な組み合わせにより、光秘密通信、高速物理乱数生成などの新たな工学応用が実現可能となります。